第三章

3ー1

「おーいコックス君でねえか?」走るコックスは声をかけられたことに気が付き急停止しました(勢いでタルトの首が取れてしまったけどそれはすぐに解決しましたよ)

「ああなんだガーさんか?」さっきまでの優しいコックスとは雰囲気が少し変わりました。
コックスにガーさんと呼ばれる大きなガチョウは首を振りながら茂みから近づいてきました。

「元気にやっているかい?」ガチョウが聞くとコックスは少し答えを考え、ぶっきらぼうに「あなたには関係がないことです、急いでいるので失礼」と挨拶も早々にまた道を駆け出しました。

しばらくして背中のタルトに「いいかいタルト君。彼の言葉を信じちゃいけないよ、彼は大嘘つきでこの島のみんなに嫌われているのさ」と言いましたがその言葉も風に飲み込まれ跡形もなく過ぎ去っていきました。この森では言葉は一瞬で過去になります。

しばらく走ると真っ暗だった森が明るくなってきました。松明が焚かれているのです。

「長老様はね、この島で一番偉いんだ。なんだって知っているんだよ」コックスは背中のタルトに話しかけました。その時には彼はもう走るのを辞めて歩いていました。どうやら長老の屋敷が近いのです。

タルトはあまりの早さに目を回しフラフラしています。虎酔いをしてしまったみたいです。
「君は記憶をなくしてしまったから忘れてしまっているけどこの赤いスカーフは彼の親衛隊の証なんだぜ」コックスは誇らしげに言いました。
「あ、そうだ礼儀正しくしていろよ」コックスはタルトに念を押しました。

タルトが周りを見渡すと赤いスカーフをした動物たちが増えてきたことに気がつきました。豚や熊、小さなアリまでもがしています。

長老様の屋敷は大きな岩にできた大きなヒビでした。その岩の周りは仰々しく飾り立てられ御丁寧にクルリと門で囲われており門には屈強な守衛もいました。

コックスは彼らに挨拶をし中に通してもらうことができました。

ヒビの入り口から入ると、中は想像以上に深く広いヒビ、狭いヒビと、ヒビを利用したいくつもの部屋があります。通された部屋でしばらく待っているとなんだかとても美味しそうな匂いがしてきました。

クンクンとあまり効かない鼻を目一杯伸ばすタルト。【なんていい匂いなんだわん】

よだれを垂らしながらふと横を見るとコックスが長老のことを誇らしく話していましたが、知らない人のことなどタルトには興味がありません。今は知らない食べ物に夢中なのです。そのことを失礼なことだとタルトは思いません(犬ですから)

話を続けるコックスを尻目に椅子から降り匂いのする方へ歩いて行きました【こっちだわん】

 

つづく

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