第四章
4−1
岩の砦から逃げ出し遠くまできたコックスは走るのをやめまだ寝ているタルトを背中に乗せたまま森の中をトボトボ歩きだしました。
「あーあーとんでもないことになっちゃったぞ・・・」
するとバイオリンの旋律と共に1匹の歯のあるカエルが茂みから飛び出してきました。
「おいコックスどうしたんだよ、しんみりした顔してよ」
「なんだお前か」コックスは歩きを止めないままチラリとカエルを見ました。
カエルは葉っぱと鯨馬の歯で作られた弦で作られてたとてもいい音の出るバイオリンを弾きながらコックスの周りをピョンピョン跳ねながら付いてきます。
「そんなしみったれた顔してないでさ歌おうぜ」
「今はそんな気分じゃないんだ」
「馬鹿なのか!そんな気分じゃないから歌うのさ、それ!」歯のあるカエルはバイオリンを顎に挟み気持ちよさそうに演奏を始めました。
【なんだなんだわん】その楽しげな音にタルトはようやく目を覚ましました。
コックスの背中からそのカエルの奏でる曲を聴いていると思わず飛び降り、楽しく一心不乱に舌を出しリズムに合わせて身体を動かし踊り始めました。
「お!お前ノリがいいな、ノリがいいやつは見込みがあるんだぞ」カエルは観客を得てますます楽しげなメロディを奏でました。
それを見ていたコックスもなんだか悩んでいるのがバカらしくなり楽しい気分になってきました。
「はは、ありがとうなんだか元気になってきたよ」
それでも少し考え事がしたかったコックスはカエルに感謝を述べるとまたタルトを乗せ歩き出しました。
しかし先程までとは違いただ無闇に落ち込むのではなく何か深く考え事をしているようです。それは彼にとってとても久しぶりのことでした。
「おーい待てよ」カエルは慌てて後を追いタルトの頭に飛び乗りました。
「へへ、よろしくな」
タルトには赤いスカーフの連中よりもよっぽどいいカエルに見えました。
「なあコックス?俺はお前についてきてるんじゃないからな、この兄ちゃんの頭の上がこの森で一番俺のお気に入りの場所ってだけさ」
カエルはよくわからない理屈を言いました。
「俺は決してお前が考える邪魔をしない、はっきり言ってここに居ないようなものさ、俺は音楽の中でだけ生きているのさ」
ほんの少し頭がおかしいようですがようするに彼はコックスの友達なのです。
彼はコックスのために少し静かな、だけど暗くなりすぎない音楽を奏でました。
つづく(不定期更新)